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マイトファジー:ミトコンドリアを選択的に分解する機構

 ミトコンドリアは、細胞が消費する ATP の大部分を電子伝達系を用いて合成する重要な細胞内小器官であり、ミトコンドリアの機能低下は、神経変性疾患、糖尿病など様々な疾患や老化現象の原因となる。ミトコンドリアは ATP 合成時に活性酸素を放出しており、放出された活性酸素の大部分は、ミトコンドリアが持つ Mn-SOD やグルタチオンペルオキシダーゼといった抗酸化酵素によって消去されているが、それでもある程度の酸化傷害がミトコンドリアに蓄積し、経時的なミトコンドリアの機能低下は免れ得ない。機能低下に陥ったミトコンドリアがどのような運命をたどるかは、これまでほとんど研究されていなかった。

 オートファジー(autophagy)は、飢餓などの細胞刺激により誘導される細胞質成分の分解機構である。これまでオートファジーは、細胞質成分を非選択的に分解していると考えられてきたが、最近の研究から、オートファジーが特定のタンパク質やオルガネラを選択的に分解していることも明らかになってきた。この選択的オートファジーには、ミトコンドリア分解も含まれており、マイトファジー(mitophagy: mitochondria autophagyの略)と呼ばれている。マイトファジーは、機能低下に陥ったミトコンドリアや余剰に存在するミトコンドリアを適切に分解する新しいミトコンドリア恒常性維持機構であると考えられており、基礎研究、臨床研究の両面から関心が高まっている。

 本総説では、オートファジーの概論と、近年、徐々に明らかとなってきたマイトファジーの分子機構や生理的意義について説明したい。

 オートファジーは、自食作用と訳されるように細胞内のタンパク質やオルガネラを丸ごと細胞内で消化する現象である1)。オートファジーはほとんど全ての真核生物に保存された現象で、栄養飢餓など様々な細胞ストレスによって誘導される。図1に示すようにオートファジーが開始されると、①細胞質内の一部に脂質二重膜からなる隔離膜と呼ばれる扁平な小胞が形成され、②さらにそれが伸長し、タンパク質やオルガネラを含む細胞質の一部を包み始め、③隔離膜の伸長が終了すると末端が融合し、閉じた脂質二重膜構造のオートファゴソームとなる。④オートファゴソームは、その外膜がリソソーム(酵母では液胞)と融合しオートリソソームを形成する(酵母では、液胞内腔にオートファゴソームの内膜だけが運び込まれる。この脂質膜をオートファジックボディーと呼んでいる)。⑤オートリソソーム(酵母では液胞)内に運び込まれた内膜と取り込まれた細胞質成分は加水分解酵素によって分解される。こうして分解された細胞質成分は、アミノ酸という形で細胞質に放出され、栄養飢餓などのストレス応答に必要なタンパク質を作るのに再利用される。この様にオートファジーは、細胞が生き延びるためのストレス応答の一つである。ここで言うオートファジーは、細胞質成分を非選択的に取り込み分解しており、後述する選択的なオートファジーと区別するために、マクロオーファジー(macroautophagy)や バルクオートファジー(bulk autophagy)とも呼ばれている。

 バルクオートファジーに対して、特定のタンパク質やオルガネラを選択的に分解する現象は選択的オートファジーと呼ばれている。選択的オートファジーには、ミトコンドリアを選択的に分解するマイトファジーの他に、ペルオキシソームを選択的に分解するペキソファジー、小胞体を選択的に分解する ER-ファジーなどが知られている。また、細胞内に感染した細菌やウイルスをオートファジーが選択的に分解することで感染防御を行っており、ゼノファジーと呼ばれている。さらに、Aminopeptidase 1(Ape1)、α-Mannosidase(Ams1)、Aspartyl aminopeptidase(Ape4)の複合体をオートファジーのシステムを使って液胞内に運び込む cytosol to vacuole targeting(CVT)pathway は、出芽酵母に特異的な選択的オートファジーの一種である。

 オートファジーは1960年頃には電子顕微鏡によって観察されているが、その分子レベルでの研究は、出芽酵母によるオートファジー関連遺伝子(AuTophaGy-related gene:ATG 遺 伝 子 ) が同定されはじめた1990年台から盛んに行われるようになってきた2)-4)。現在では、出芽酵母に於いては36の ATG 遺伝子が同定されており、その哺乳類ホモログの解析も進み、オートファジーの分子機構から生理的意義に至るまで広く理解されるようになっている。


マイトファジー

 電子顕微鏡による観察から、オートファジーがミトコンドリアを分解していることは1960年台から知られていた。しかしながら、ミトコンドリアのオートファジーによる分解が選択的であることが明らかになったのは、ごく最近のことである。 文献上で「マイトファジー」という言葉が最初に使われたのは2005年のことである5)。この時点では、オートファジーによるミトコンドリア分解の報告は少なく、マイトファジーはあくまでも概念でしかなかった。その後、哺乳類では、赤芽球から赤血球に分化する過程でマイトファジーによりミトコンドリアが分解されていることが6)、さらに家族性パーキンソン病の原因遺伝子であるPARK2と PARK6がコードする Parkin と PINK1が、膜電位の低下したミトコンドリア上に集積しマイトファジーによってミトコンドリアを分解していることが報告され7)、マイトファジーが広く研究されるようになった。ほぼ同時期に、大阪大学の岡本らや著者らにより出芽酵母におけるマイトファジー関連遺伝子のスクリーニングが行われ、新規マイトファジー遺伝子 ATG32が同定され、その遺伝子産物 Atg32の機能解析から、マイトファジーによるミトコンドリア選択的分解の分子機構が明らかになってきた9)-11)。この様に、マイトファジーと細胞分化や疾患との関わりが明らかとなり、また分子機構の解明が進んだことで、マイトファジーは新しいミトコンドリア恒常性維持機構として注目されるようになってきている。


おわりに

 マイトファジーは直径が500nm 以上もある大きな構造体であるミトコンドリアをまるごと分解することでミトコンドリアの機能維持を行っている現象である。これまでもミトコンドリア機能維持に関しては多くの研究が行われてきたが、マイトファジーは、これらと一線を画するダイナミックなミトコンドリア機能維持機構である。その本質が、機能低下に陥ったミトコンドリアを選択的に分解することにあるため、マイトファジーの誘導に関する理解が進み、マイトファジーを制御することが可能になると、ミトコンドリア機能低下が原因で生じる疾患の治療・予防に応用できるのではないかと著者らは期待して研究を進めている。 分子生物学が進歩し、ミトコンドリアに関しては、電子伝達系による ATP 産生、脂肪酸のβ酸化、アポトーシスの調整など、個別の機能についての理解は大きく進んできた。今後は、マイトファジーも含めて、細胞が制御するミトコンドリア全体の機能と量の調節、即ち Mitostasis(ミトコンドリア恒常性:mitochondria homeostasis の略で著者の造語)の理解を深めていく方向に向かっていくのではないかと思われる。





ミトコンドリア品質管理を司る細胞制御システムの解明
ミトコンドリアオートファジー(マイトファジー)の基礎研究
オートファジーによるミトコンドリア分解機構



損傷したミトコンドリアが分解されるメカニズムの一部を解明

ミトコンドリアは、細胞内エネルギーを作り出す重要な細胞小器官でありながら、細胞死(アポトーシス)でも中心的な役割を担い、細胞の生と死の両方の制御に非常に重要な役割を果たしています。アポトーシスは、個体をより良い状態に保つために、細胞が自殺するプログラムされた細胞死で、そのため厳密にコントロールされています。特に、ミトコンドリアの中にあるFKBP38などの抗アポトーシスたんぱく質ファミリーが、無意味にアポトーシスが起こらないように積極的に抑制しています。

ミトコンドリアがエネルギーを作り出す際には、同時に活性酸素が作り出されるため、徐々にミトコンドリアが傷害され機能が低下していきます。損傷したミトコンドリアの蓄積は細胞全体に悪影響を及ぼすため、機能低下したミトコンドリアはマイトファジー(自食作用)というシステムで選択的に分解・除去されます(図1)。近年、このマイトファジーの異常で、損傷したミトコンドリアが細胞内に蓄積することが、パーキンソン病発症の一因(ミトコンドリア機能障害仮説注6))ではないかと考えられるようになりました

このように、細胞の健康にとって重要なマイトファジーですが、ミトコンドリアが分解されるとミトコンドリアに存在しているアポトーシスを抑制するたんぱく質まで消失するため、過剰にアポトーシスが起きる危険があります。細胞が、マイトファジーを起こした際にどのようにしてこの危険を回避しているかは今まで謎でした。


マウスの線維芽細胞でマイトファジーを起こさせたところ、ほとんど全てのミトコンドリア自体は分解されましたが、そこに存在するFKBP38は分解されずにミトコンドリアから小胞体へと移動していました。

ミトコンドリアに存在するほかの抗アポトーシスたんぱく質についても検討したところ、抗アポトーシスたんぱく質Bcl-2注7)もFKBP38と同様に、マイトファジーの際にミトコンドリアから小胞体へと避難することが分かりました。

C末端領域の塩基性アミノ酸注8)の数が少ないことが分かりました。

アミノ酸置換により塩基性度を上げたFKBP38とBcl-2の変異体を作製してマイトファジーを誘導すると、FKBP38とBcl-2はミトコンドリアから小胞体へと避難できなくなることが分かりました。

本研究より、抗アポトーシスたんぱく質のFKBP38は、マイトファジーの際ミトコンドリアから小胞体へと避難することで自らの分解を免れ、アポトーシス抑制に働くことを見いだしました。またその居場所の変化には、FKBP38のC末端領域のアミノ酸の塩基性度が重要であることが明らかになりました


FKBP38はもともと神経線維(神経細胞の細胞体から延びる細長い突起)の腫瘍で活発に作り出されるたんぱく質として報告されていましたが、2003年に本研究チームにより、FKBP38はBcl-2注7)をミトコンドリアに局在させ、アポトーシス抑制に働いていることが発見されました。






ミトコンドリアはエネルギーであるATPを作り出すが同時に、細胞死させることもできる力(アポトーシス)を持つ。

細胞死を抑制するのは「FKBP38」「Bcl-2」等タンパク質。

ミトコンドリアは強い力を持つがその力(活性酸素)で同時に自らも傷つく。

細胞には傷ついたミトコンドリアを清浄化する機能(マイトファジー)がある。

マイトファジーをしてしまうと「FKBP38」「Bcl-2」も片づけてしまう可能性がある。

そうならないために小胞体に一時避難させることができる。

ミトコンドリアたんぱく質のC末端領域の配列の塩基性度を「低く」する。
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